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daisetsuの日記

2010-11-25

村上龍『逃げる中高年、欲望のない若者たち』

20:56

逃げる中高年、欲望のない若者たち

逃げる中高年、欲望のない若者たち

 今の20代くらいの人たちならば、村上龍中田英寿との交流によって知った人も多いはずである。彼らは一緒に本を出したり、テレビでトークしたりしているし、村上は中田を題材にした小説まで書いている(『悪魔のパス、天使のゴール』)。中田が今何をしているかはよく分からないが、もし、自分が何をすべきかをまだ模索している最中だとすれば、村上が本書で描いた日本の状況もまた、中田の状況と同じものに見える。

 本書を一読して特に気がつく点は、村上が現在の日本の状況に対して、どうすべきなのかわからない、とはっきり言っていることだ。

「経済的に豊かになったが、今20代半ばだったらと思うと、どうやって生きていけばいいのか見当がつかない」(pp. 53-54)

「上の世代に対し、尊敬ではなく、怨嗟を抱いている若者は少なくないだろう。若者の多くは無能だから職を得られないわけではなく、国際的な経済状況の変化の中で、犠牲になっている部分も確かにあるからだ。いったいどうすればいいか、わたしにはわからない」(pp. 163-164)

 社会が大きく変わっている、と色々なところで言われる。確かにその変化は目に見えて実感できるものである。だが、ではその変化の先に、どのような社会があるのか、そして私たちはどのように生きるべきなのか、そのイメージは全くわかない。本書を読んで、村上が「わからない」とはっきり言っていることがとても象徴的で、今は本当に先が見えない状況にあることがよくわかる。

 これはもしかすると、社会のほとんどの人々の本音なのではないだろうか。村上自身が「わからない」といっているのは正直意外だが、「わからない」という状況こそ現代の日本にぴったりのように思える。村上は言っている。

「たとえ政権が変わっても、これで生活が良くなると無邪気に喜ぶほど、日本国民はバカではない。わたしたちは、やっと憂うつな真実に気づきつつあるのだ。(…)すべてがうまくいき、すべての人の生活が向上していく時代はとっくの昔に終わっている」(pp. 183-184)

 先が本当に見えないのだという「憂うつ」さ。その「憂うつな真実」からもはや逃げることはできないのだし、そろそろそれと真正面から向き合わなければならないらしい。やみくもに、「日本を元気にする!」とか、「立ち上がれ」と言うだけでは、何も生まれない。まずは、社会がどうしてこのような状況にあるのか、正確に分析することから始めていくしかない。「いったいどうすればいいのか、わからない」ならば、本気で考えるしかないのである。考えるのは、私たちである。

だが、「よい兆しはどこにもない」(p. 185)という村上も、最後はこんなこと書いている。

「日本は、全体としてはひょっとしたらゆっくりと衰退していくのかも知れないが、すぐれた個人が多数現れているので、文化や科学技術やスポーツなど具体的な分野でめざましい成果を上げるだろう。現に、あなたの国でも、覇権をアメリカに譲り、政治経済の疲弊が頂点に達したころ、ビートルズが出現したではないか」(p. 187)

 実は私たちは、これからの社会を作りあげていくという幸運を手にしているとも言えるわけだ。だが、みながみな、ビートルズになれるというのでも、なるべきだというのでもない。私たちが生きているそれぞれの世界で成果を上げること。一人ひとりが担っている役割をきちんと果たすこと。「成功を考えてはいけない、考えるべきは、死なずに生き残るための方法である」(p. 112)。「憂うつ」さを振り払うのに遮二無二頑張るとただ空回りするだけである。今本当に必要なのは、氷のような情熱なのではないか。

 確かに村上の言うとおり、中田英寿がいなくなった後の日本代表の試合は、見ていて悲しくなるものがあった。それは今の代表のレベルが低いということではなく、試合の中でファンタスティックなものを観れるのではないかという期待が、中田がいないことで全く持てなかったことによる。しかし、W杯での試合は、そのような観客の気持を払拭するものであった事は間違いがない。そこには氷のような情熱があった。おそらく中田のような天才はなかなか生まれないが、フットボールが非日常の歓喜をもたらす芸術であることを思い起こすことは、容易にできるはずである。「よい兆し」は、実はすでに表れつつある。

(も)さん

特に問題がなければ、書評の一つとしてHPにアップしていただきたいんですがどうでしょうか。

windupbirdwindupbird 2010/11/26 03:02 ありがとう!ぜひ書評に使わせてください。また時間あるときに更新作業させてもらいます。龍と春樹が書評に加わって幅が広がるかな(笑)
最近の村上龍は読んでないんだけど、こんな絶望してる感じなの?少し前は「終身雇用制度が崩れて今こそ若者のチャンスだ!」みたいな煽り方してたのに少し反省したのかなぁ。半年くらい前に読んだ新聞のコメントでも結構保守的なことを言っていて(流動化した社会の中でやはり家族や地元は大事だ、みたいな)びっくりしたんだけど。
中田の生き方が象徴的かもね。個人主義→海外へ挑戦→自分探しの旅ときて、最近は日本のいろんな地域を回って日本の良さを再発見!みたいな感じらしいので。http://nakata.net/jp/index.htm

daisetsudaisetsu 2010/11/26 11:15 よろしくお願いします。そういえばダブル村上になるわけですね。
絶望しているというより、途方に暮れているという感じでしょうか。何したらよいのかはっきりとはわからない感が強く出ているように感じました。保守化してきたのかもしれません。
実はサッカー少年だったころ中田にハマりまくっていたので、中田の動向はとても気になります。色々日本を回っているみたいですが、何をする気なのでしょうね。

ゲスト



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